―― ここは“神の居ます場所”
数多の願い、幾千の想い。
無数の祈りがその周囲を取り巻いている。
深き眠りに沈んでいる神。
初めて見る神様はおだやかに眠っていた。
「神はここでこうして世界を守り続けてくれているんだよ」
いつもと違う厳かな声でメル姉が言う。
「世界を包む揺り籠、それは神の眠りで紡がれているんだ」
普段より静かな声でレイアル兄が言う。
「…神様は、もう起きないの?」
その言葉に二人は小さく笑って首を振った。
「結界がなくても平気になれば起こせるんだけどね」
いつものようにメル姉が言う。
「その手段を探すために界渡りの能力はあるんだよ」
普段通りにレイアル兄が言う。
「じゃあ、私も界渡りの術者になる!」
その言葉を聞いた二人の反応は正反対だった。
「ほら言った通りになったでしょう」と笑ったのはメル姉。
「だから嫌だったんですよ」と顔を顰めたのはレイアル兄。
でも本当は二人も私と同じ思いでここへ連れて来てくれたんだと思う。
何故なら眠り続ける神を前にすれば誰もが同じ事を考えるはずだから。
「いつか神様を起こして、恩返しができますように」
神の眠りを妨げぬように。
「そのためにアールフたちがいるの」
神の願いを叶えるために。
「そのために界渡りたちがいるんだ」
「解放へと導く可能性のために」
神の御前で静かに祈る。
願いを新たに歩き出す。
彼方に広がる世界へと。
―― ここは“神の居ます場所”
〜Stera〜
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