この世には人ならぬものがいる。
人の血肉を啜って生きる異形の生物。
人々は恐怖と共に彼らを呼ぶ。

――人狼、と。

夜闇は彼らの時間。
人にはない力を持って彼らは人を襲う。

しかし人もまたやられたままではいない。
不思議の力を授けられるのは一握りの人間のみ。
それでもその力は彼らを追い詰める手段となり。

人間と人狼。
闇の中で繰り広げられる闘い。
死の舞踏はどちらかが倒れるまで続く。

けれど。
この世にいるのは両者だけではない。

満月は人狼の魔力を増す。
人知を超えた力がいや増されるその時を人間は恐れる。
だがしかし。
その人狼が恐れる満月もまたあった。


アカノツキ。

何故ならば。
其が力を呼び起こすのは、
其が齎すのは、
全てを覆う狂気だから。

アカノツキ。

其は人間にも属さぬ。
其は人狼にも属さぬ。

アカノツキ。

どちらにも属さぬ第三の存在。
人狼と人間の両方の天敵。
魂を啜り尽くすモノ。

――その名は、妖魔。


赤の狂気が彼女を包む。

  少女の魂を啜って笑う。

紅の狂気が彼女を包む。

  青年の魂を啜って哂う。

朱の狂気が彼女を包む。

  老人の魂を啜って嗤う。


―― 笑う、哂う、嗤う、ワラウ ――


狂気の後に残るのは、嘆きと哀しみ。
永き年月を、不老のままに。
本能と理性の狭間で、苦しみ続ける。


彼らは自然に死を迎えることはなく。
彼らは他者に傷つけられる事はなく。

開放するのは、ただ一つの手段のみ。

其に希望を抱き。
其に恐怖を覚え。

アヤカシ達は生き続ける。


そして。
彼女もまた。


Before   Next






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