-Stern wuenschen-


「うわぁ!」
「すごいね…」

闇の降りた丘。
少女達は空を見上げて歓声を上げた。

「あっ、ほらまた!」
「うん」

開けた頭上に広がる星空。
その中をスーッと、尾を引いて走ってゆく光がある。

「…ミリィ、何をお願いしたの?」
「!! なななな、ナイショだよっ!」

ふと、赤毛の少女を振り返り灰銀の髪の少女が問いかけた。
問われた方は大慌てで手と頭を大きく振るう。

「やっぱり…」
「きっ、聞こえちゃうから、ダメ、だってばー!!」

少女達が振り返るのは少し離れた木の近く。
視線を受けて歩いてくる人影が首を傾げる。

「どうしました?」
「なななな、なんでもありませんっ!」
「…願い事、叶うかなって」
「イレェェネーェッ!!!」

最早悲鳴に近いミリィの声に、イレーネがクスリと笑う。
男は僅かに首を傾げ、それから小さく頷いて。

「叶うといいですね」

笑みを含んだ声に、ミリィはガクガクと首を縦に振った。
イレーネは再び空を見上げ、それから男の方を見る。

「お医者先生は願い事ないの?」
「さて?今が幸せですからね」
「い、いま?」
「……ええ。お約束も無事に守れましたし」

ここに二人を誘ったのは彼だった。
先日、ふと漏らしていた誕生日を祝ってくれた少女達。
そのお礼にとミリィを誘い、その親友であるイレーネも連れ出して。

「綺麗に晴れてくれて良かったです」
「…せんせって、本当に色々知ってるよね」
「たまたま商人から教わっただけですよ、今回は」
「それでも、凄いな」
「はは、恐縮です」

そして三人揃って空を見た。
再び流れてゆく星。
僅かな沈黙が降りる。

「…本当に叶いますように」
「…うん。叶いますように」

少女達の小さな声が夜風に乗って流れた。



…あの時、幸せの理由を答えるまで僅かな間があったことに、少女達は気付いたかどうか。否、本人すら気付いていたのかどうか。
幸せの中に居る時、人はそれに気付くのが難しいという。

初夏の夜、込められた願い。
それが叶ったのか叶わなかったのか、知っているのは本人達のみ。
けれどもそれは消えることのない、優しい記憶。

――同じ夜を過ごす機会は、二度と訪れなかったとしても。






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