- 060 開拓 -




「こんな広い場所は久しぶりだな」
「そうだね。猫の国でもここまでの広さは無かったし」
「港町…やっぱり倉庫が似合うか?」
「…安易すぎ。便利には便利だけど」
「ほっとけ」

精霊に祝福された小国リュアにある港町バーシュ。
その一角で、一組の男女が手にした品々を仕分けしながら話し合っていた。
Tyekku と Meru 。次元の回廊を抜け、この世界へとよく遊びに来ている二人である。

「私はねぇ、サンルームが作りたいの」
「いいんじゃないか。でも、そのココロは?」
「倉庫作るなら、私にも場所貸して!」
「言うと思った。まぁいいけどね」

二人はこれから、この場所にこの国での家を建てるのだ。
港町は開拓地。暫く前にこの場所が新しく整備され、新規の入植者も受け入れてくれることになったのだ。
最初に足を踏み入れた国が一時的に閉鎖されることになって移ってきたこの地は、二人にとって第2の故郷のようなものになっていた。
もっとも、強くそう感じているのは主にMeruの方だけだったりするのだが。
まぁちゃんと付き合ってくれる辺り、Tyekkuも悪感情は持っていないようだ。

「だって、広いお部屋が欲しいんだもん!」
「だからいいって言ってるだろ。じゃあ、俺は倉庫で決定な」
「はぁ〜い。そうすると、リソースは何が必要?」
「Wallはまずそれなりに必要だろ。後はDoorがなけりゃ話にならない」
「私はWindowがいっぱいいるよね」
「それからProtectionが必須だな。外には何か作るのか?」
「特には考えてない〜」
「じゃ、TreeやWaterはいらないだろ」
「Secret Doorも禁止だね」
「で、全部でいくつあるんだ?」
「壁は数が足りなさそう〜」
「…お前作れ。どうせそういうの好きなんだろ」
「うん!了解だよ」

緑色の髪を翻してMeruが走ってゆく。
その後姿を見送ったTyekkuは、仮設置したサークルからWallのリソースを取り出して敷地の境界へと向かった。
そのまま境界線にリソースを置き、魔力を開放させる。
次の瞬間「ポワン!」と言う音と共に、そこには壁が出来上がっていた。
そして周囲を見渡して、溜息を一つ。

「結構労力がいるな、これは…」

単純作業はあまり好きでないTyekkuなのだった。

一方のMeruはSeedを片手にNutsを拾い歩いていた。
錬金術の応用で、この種を必要なリソースに変化させてゆくのだ。
だが、その法則はいまだ良く分かっておらず…Nutsはすぐに足りなくなった。

「えぇい、こうなったらナメゴンからキノコを奪うぞっ!」

ここにも微妙に短気な者が一人いたのだった。

そんなこんなはあったものの、着実に家は出来上がってゆく。
Meruは望みどおりに窓に囲まれたサンルームを作り、中央には誰でも使える食料箱を設置。
Tyekkuは通路を1本通した倉庫を作り、今まで溜め込んできた品物を収納できるようにする。
かくして、今は無き猫の国以来の、二人の共同住宅が出来上がったのだった。

「疲れた…」
「でも、面白かった!」
「お前、本当に好きだよな、こういうの」
「うん♪」

サンルームに2人――いや、作業が終わったMeruは猫になっているので1人と1匹――で並んで暫し一休み。
安心して過ごせるのんびりとした時間の流れは、やはり家があってこそ。

「また冒険も頑張ろうね〜」
「そうだな」

うららかな日差しに誘われて。
いつしか気持ち良さそうな寝息の二重奏が聞こえてくる。
のどかな一幕。

それもまたよし。
なぜなら、ここは二人が開拓した、くつろぎの空間なのだから。





     〜Meru〜



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